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循環器専門医が考える適切な「メディカルダイエット」とは ?

[2025.05.15]

メディカルダイエットとは?

皆さんは「メディカルダイエット」という言葉を聞いたことがありますか?
最近では、この言葉をよく耳にするようになったという方もいらっしゃるかもしれません。

実際に、患者さんからメディカルダイエットについて尋ねられることも増えてきたため、今回、院長ブログで取り上げてみようと思いました。

メディカルダイエットとは、医師の管理下で科学的根拠に基づいて実施される減量治療のことです。

肥満はご存知の通り、糖尿病脂質異常症高血圧など多くの生活習慣病のリスク因子であり、これらは心筋梗塞、脳卒中といった重大な健康問題を引き起こす可能性があります。

そのため、予防と早期介入が重要であり、特に循環器内科の立場からは、肥満への早期対応が心血管疾患の一次予防につながると考えています。

当然ですが、ダイエットの基本は「食事・運動療法」です。ただし近年では、減量効果に加えて心血管イベントの抑制効果も期待されるGLP-1受容体作動薬が注目されており、必要に応じて薬物療法も取り入れられます。特に、GLP-1受容体作動薬(例:セマグルチド〈リベルサス〉)や、GIP/GLP-1二重作動薬(例:チルゼパチド〈マンジャロ〉)の使用により、食欲抑制と血糖コントロールを通じて効果的な体重減少が期待されます。

メディカルダイエットの薬物療法ってどうなの?安全性は?

前述の薬剤である、マンジャロ平均15〜20%の体重減少を達成し(SURMOUNT-1試験)、リベルサス約14.9%の体重減少が報告される(STEP試験)など、いずれも顕著な減量効果を示しています。さらに、これらの薬剤は心血管疾患リスクの低減にも寄与することが複数の研究で確認されています。

気になる安全性ですが、これらの薬剤に共通して報告される主な副作用は以下のとおりです。

  • 消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、便秘):これらは最も一般的な副作用であり、通常は軽度から中等度で、治療開始初期や用量増加時に一時的に現れることがあります。多くの場合、時間の経過とともに軽減または消失します
  • 膵炎:まれに膵炎が報告されていますが、その発生率は非常に低く、0.3〜0.4%程度とされています。特に過去に膵炎の既往がある方は注意が必要です。
  • 胆石症・胆のう障害:急激な体重減少に伴い、胆石が形成されるリスクがわずかに増加する可能性がありますが、その発生率は低く、0.5〜1%未満と報告されています。
  • 甲状腺C細胞腫瘍:動物実験において観察されたものであり、人間での明確な関連性は示されていません。ただし、甲状腺髄様癌の家族歴がある方は使用を避けることが推奨されています。
  • 低血糖:単独使用では低血糖のリスクは低いですが、他の糖尿病薬(特にインスリンやスルホニルウレア系薬剤)との併用時には注意が必要です。

全体として、これらの副作用は多くの場合軽度で一過性であり、適切な医師の指導のもとで管理可能と考えられます。

海外における使用状況

海外では、これらの薬剤はすでに「肥満症治療薬」として正式に承認・使用されています。

  • アメリカ:マンジャロとリベルサスは、いずれもFDAにより2型糖尿病治療薬として承認され、臨床では肥満治療にも使用されています(オフラベル)。
  • イギリス:マンジャロは2023年に肥満治療薬としてMHRAにより正式承認。
  • EUEMAもマンジャロを肥満または過体重の成人への治療として承認済み。

このように、世界的にも科学的根拠に基づいて肥満治療薬としての地位を確立しつつあります。

循環器専門医が考える薬物併用メディカルダイエット

そこで今回は、循環器専門医の視点から、メディカルダイエットにおける薬物併用のポイントについてご説明したいと思います。

そもそもダイエットにおいて最も重要なポイントは、いかに筋肉量を維持しながら減量するか、という点です。なぜなら、減量中に最も落ちやすいのは筋肉だからです。その理由は、食事制限によってエネルギーが不足すると、体ではまず筋肉を分解し、糖質(グルコース)として利用しようとするためです(これを糖新生といいます)。つまり、減量初期には脂肪より筋肉が優先的に分解されやすくなるのです。筋肉が減ると基礎代謝が低下し、せっかく体重が落ちてもリバウンドしやすくなってしまいます。そのため、食事制限中であっても筋肉の減少を防ぐ対策を取ることが非常に重要です。特に40歳以降は、加齢に伴って筋肉量が減少しやすく(サルコペニア)さらに注意が必要です。

このように、メディカルダイエットにおいては、単なる体重減少を目指すのではなく、筋肉量を維持しながら行う健康的な体重管理が求められます。

これらの基本を前提としたうえで、いわば“トッピング”として最後に加わるのが、GLP-1受容体作動薬などの薬物併用療法です。

そこで、以下の①~③の要素を上手に取り入れ、効率的にダイエットを進めていくことをお勧めします。

①食事療法

  • タンパク質の十分な摂取:筋肉の維持には、体重1kgあたり1.2〜1.5gのタンパク質摂取が推奨されます。
  • バランスの良い栄養摂取:ビタミンやミネラルを含む野菜、きのこ、海藻などを十分に摂取することが大切です。

②運動療法

  • レジスタンス運動:筋力トレーニングを取り入れることで、筋肉量の維持・増加が期待できます。
  • 有酸素運動との併用:脂肪燃焼を促進し、心肺機能の向上にも寄与します。

③最後に薬物療法をトッピング

  • GLP-1受容体作動薬などの併用: どうしても我慢できない食欲を抑えつつ、筋肉量の減少を抑制しながら体脂肪を減少させる効果も期待されています。

まとめ

痩せることは生活習慣病の予防につながるだけでなく、自信を持てるようになるなど、多くのメリットがあります。だからこそ、ダイエットを望む方が多いのだと思います。

もちろん、ダイエットの基本は食事療法や運動療法ですが、それでも乗り越えられない壁に直面することがあります。たとえば、どうしても食欲が抑えられないといった悩みを抱える方も少なくありません。

そのような場合には、メディカルダイエットとして薬物療法を上手に取り入れることで、より効率的に減量を進められる可能性があると考えています。

ただし、薬物療法を取り入れるとしても、筋肉量を維持しながら健康的に痩せることが何より重要です。むやみに薬に頼るのではなく、あくまで基本を重視し、必要に応じて薬を併用する姿勢が大切です。

これこそが、メディカルダイエットの最適解であると、循環器専門医の立場から考えています。

 

参考文献

·  Sarcopenic Obesity and Cardiovascular Disease: An Overlooked but Deadly Combination. Frontiers in Endocrinology. 2023.

·  Associations between sarcopenic obesity and risk of cardiovascular disease: A systematic review and meta-analysis. ScienceDirect. 2024.

·  Association between sarcopenia and cardiovascular disease among middle-aged and older adults. The Lancet EClinicalMedicine. 2021.

·  SURMOUNT-1 trial. New England Journal of Medicine. 2022.

·  STEP trial. New England Journal of Medicine. 2021.

·  GLP-1 and Muscle Mass. Obesity Reviews. 2023.

·  Metformin and Muscle Preservation. Diabetes Obes Metab. 2020.

·  FDA Approval of Semaglutide and Tirzepatide for Obesity. FDA.gov. 2022.

·  MHRA and EMA Approval of Tirzepatide for Obesity. EMA. 2023.

·  GLP-1 and Resistance Training in Older Adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2021.

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